Re:11colors

毎週水曜更新(2021年9月現在)。革靴、模型、日常。

アソビなのにまとめている。SEIKOプレザージュのカクテルタイム

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腕時計のカラーダイヤルが一大ムーブメントになりそうだがそれとは全然違うところである程度の期間をもって延々とカラーダイヤルの時計を出してるっぽいのがSEIKOのプレザージュ、カクテルタイムコレクションだ。といっても知ったのは昨年の今頃だし俺はSEIKOフリークでもないのでその辺はよくわからない。加えていうと時計にコストパフォーマンスを求めたりもしないのでコスパ云々もここで話さない(とはいっても製品特性上、少し最後に触れる)。
で、プレザージュのカクテルタイムコレクションの話。

 

このコレクション、実物を眺めると明らかに「予算内にまとめよう」という意図を感じる。カラーダイヤルをフラットな一色にせずにグラデーションにしたりテクスチャーを持たせたり、あるいはギョウシェ彫りといわれる凹凸を持たせたりするわけだけど、これが面白い。多分、予算内だとフラットな一色で鮮やかな色を出し切れないのではなかろうか。逆に言うとそれをやっていて「お、きれいだな」と思う時計は結構限られるしマジで高い。松竹梅の竹くらいの色味にこれまた(おそらく)竹くらいのグラデーションやテクスチャー、ギョウシェ彫りを掛け合わせて絶妙なバランスをとっているのを結構強く感じるのだ。

 

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私が買ったティファニーブルーみたいな色の文字盤は、発色の難しさから特にそうだと思った。フラットな一色できれいな色は出せないけども、グラデーションとギョウシェ彫りでトータルにきれいに見せている。「色と加工できれいに見せる」というアイデアと工夫がカクテルタイムコレクション全体にあるのかもしれないので、他の色も買ってみたい。

 

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目立つのは文字盤だが、腕時計らしくロマンのある話をすればこの時計は機械式時計だ。機械式時計というロマンをキープしつつ、カラーダイヤルを身に着ける楽しさを加える。しかも安く。この辺にSEIKOのマジメさが垣間見えるし、「これを足掛かりに機械式時計を買ってね」みたいな気分や「機械式時計をすでに持っている人でもこの価格なら遊べるよね」とかいう購買行動への刺激を割と露骨に感じる。マジメが故の駆け引きが苦手な感じというかなんというか(その辺シチズンはうまく隠してるけど隠しすぎたプロダクトが生まれているのが面白い)。

 

カクテルタイムコレクションをどこで買うのかという話もあるが私はヨドバシカメラで買った。安いというのもあるし、偶然見つけたというのもある。皮肉な話だが、ショーケースに入っていると、時計をきれいに見せるための強い照明がグラデーションの柔らかなトーンやギョウシェ彫りが生む光と影の繊細さを失わせていた。なのでショーケースから出してもらうと、案外落ち着いた色味で表情豊か。実物の方が手をかけた加工がよりよく見える。会ってみたら、プロフィール写真よりもずっと美人でなんだか家庭的だったというのはこういう感じだろう。

 

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とはいっても弱点みたいなのがあって、それはベルトだ。レザーの質感は顔料が多く乗ったような均一で妙にピカっと光るツヤ。ミラネーゼベルトも最低限といった感じで粒の立体感などはほとんどないので光り方も普通。

じゃあ逆に革の質感が良くてメタルブレスもほどよいクオリティで……ってなると価格が上がりそうなので弱点とは言ったものの割り切ってる感じが個人的に好感度が高い。やっぱり、まとめてきていると感じる。どこに金をかけるかって言ったら「文字盤」で、どうするかと言われたら「色と加工できれいに見せていく(しかも安くて機械式時計で)」という強いコンセプトが形になっている時計なのではなかろうか。

 

この時計に関してはコストパフォーマンスという言葉の再定義が求められると思う。今は「コスパ」という言葉は5万の靴が15万の靴に負けていないみたいな話になってきている気がするが、このカクテルタイムに関しては5万で5万の時計が手に入るような良さがある。払った金額に対して安すぎるということはないというわけだ。

当たり前の働きを果たすために色と加工と割り切りで見せるカクテルタイムはどこに金がかかっててどこにかかってないのかがわかる、良プロダクトだ。

 

今週の物販

 

 

 

 

 

 

 

ミニカーショップイケダが無くなってしまった

 

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数年前にミニカーが欲しいと思い、衝動的に検索したところ家から自転車で行けなくもないくらいの距離にあったのがミニカーショップイケダであった。私は地元が好きというか、東京23区の東側が抱えている、実力のある老舗みたいなものが結構好きで、品ぞろえもよく、ただ物が並んでいるようなそっけない店舗でありながら実力のある専門店としての雰囲気の良さを持ったイケダが日暮里にあることはとても良いと思っていた。

 

今日、昼休みにネットでニュースを見ていたら「ミニカーショップイケダ廃業」という記事が目に入ってとても驚いた。先週の土曜日に買い物に行ったからだ。イケダはホットウィールの穴場だし、ショーケースの上にある大スケールのミニカーから、棚にちんまりと寄せられたブレキナだとかヘルパのミニカーだったりとどれを見ても楽しく、一時期精神的に参っていたころなどは癒されに行ったといっても過言ではない。本当によく通ったと思う。タバコや葉巻を吸うような感覚でミニカーをザクザク買った。間違いなく「好きな店」だった。静かにごちゃごちゃしていたのが、よかったのだ。

 

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いつかは、あの棚の上の1/18のシトロエン2CVルノー4を買って、家に飾るんだと本当に思っていたし、グリーンライトとかのセット売りのミニカーをまとめて買おうと思っていた。ラリーカーやモンスタートラック、ガルフカラーの車たち。目が覚めるような色合いのチョイスが美しいTarmacや「高級品」と言いたくなるほどの質感と細かさのShucoの3インチ。ブランドをイケダで覚えて、検索したり雑誌を見たりして由来や味を知るなんてことが多かったし、どれだって服や靴に傾倒した俺からすれば選び放題。いつでも何でも買えると思っていたから、その時々に好きなものを買いながら「いつか買う」と思いながら買わなかったものが、あの店ではもう買えない。いつか、感覚が麻痺して他の店で買うのだろうけど、いわゆるおもちゃ屋でミニカーを買ったときは子供向けの何かを手に入れたような感覚で全然楽しくなかった。イケダが世間的にどういう店だったかはさておき、あそこは俺にとってはマニアックで大人が通う店だったし、店そのものがミニカーの対象年齢を引き上げていたとすら思う。

 

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イケダはコロナウィルスが流行る前、アルバイトのスタッフが大学を卒業するからと営業形態が少し変わったり、今の状況が当たり前になってからは店頭に並んでいない在庫を倉庫から当日取り寄せてくれるということもなくなってサービスの規模みたいなのは小さくなっていたが、それでも構わないからとにかく続けていてくれと思っていた。ガチャガチャしたホビーショップで買うよりも、こういう静かな専門店で買うのが良いと思っていたから。多分スピーカーから流れていたのは在日米軍向けのラジオだと思う。

 

イケダはなくなってしまったが、今後はどうなるのだろうか。問屋としての機能があったりするようなのでどこかが吸収するかもしれない。そうなったとしてもあの各国のミニカー目白押しみたいな状態はなくなっちゃうんだろうな。

Plamo(del)death by heat gun

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インナーゲームというテニスのメンタルトレーニングの名著があるのですが、この本は禅や瞑想のようなものとは違うアプローチで心と身体のコンディションを一致させ最大限のパフォーマンスを発揮しようという本です。

本を読んで、実践してみると大なり小なりゾーンのようなものに入れるようになるので大好きかつ人にオススメしたい本で、ぜひトライして欲しいと思います。結果的に得られる効果は瞑想や禅と同等のもののような気がしますが、具体的なアプローチがマジで面白い。ちなみに俺はテニスはやったことがない。

 

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本の中にはテニスボールの縫い目に注目してラリーを続けるだとか、ラケットから響く打球音に意識を傾けるなど、客観的でブレのないものに集中することでテニスのショットの精度が上がる、フォームが安定するという話が書いてあるのだけれど、そんな風に「今、行なっている動作そのもの」ではなくそれを取り巻く環境に意識を向けるという着目点を何にでも置き換えられることに気づけるかがポイント。私はプラモデルの筆塗りに毛足の長い、細めの丸筆を使うことで綺麗に直線が引けるようになりました。理由は「直線を引きたい」と躍起になるのではなく「筆のしなっている状態をキープする」方に意識を傾けることができるから。天才ですね。ええ。

 

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そんなインナーゲームの使い手である私は筆塗りの面白さをタミヤの傑作機シリーズ1/48 シーハリアーで味わっていました。このサイズのプラモデルを筆で塗るのはなかなか骨が折れますし、高速で完成させたいと思うとミスが重なります。というか翼を綺麗に筆で塗るのが難しい。

今回は、筆で塗られる形を楽しむように塗装を行なっていました。パネルラインごとに塗ってみたり、凹凸の関係でどうしても一定方向だと色が乗らないところ。そういう筆の面白さを観察しながら塗っていると、綺麗に塗ろうと思わなくても綺麗に塗れるものです。均一な塗装面を形成するのは難しいですが、静かな表情を持った機体は美しく「今回はうまくいくぞ」と思っていました。 

インナーゲームの面白いところはこういう、本来の趣旨と違うところを眺めていながら結果的にパフォーマンスとしては十分なものが得られる点でしょう。尾翼の乾燥を早めるためにヒートガンを当てながら、一定の面ごとに乾いていく塗装面を眺めていたらその瞬間は突然訪れました。

 

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そう、ヒートガンの熱で尾翼がとんでもなく歪んでしまったのです。それはもう、お話にならないくらい。もし私が乾いていく塗装面ではなくヒートガンの音や手元に置いてあるTIMEXの腕時計から鳴る秒針の音に関心を向けてさえいれば、こんなことにはならなかったと思います。

 

「プラモデルにおける死」というのを、味わいたいなと思いここ半年くらい生きていましたが、久しぶりの死は突然訪れました。精密に折り重ねられたテニスのラリーのような時間は、ヒートガンへの私の不注意がもたらしたのです。

 

ひとつラッキーだったのは次の日がゴミの日でその失敗作と向き合う時間がとても少なく済んだことでしょうか。とはいうものの、もう一回買って楽しめるのがプラモデルの面白いところです。週末は第二戦が待っています。

 

今週の物販