「びっくりした靴がいくつかあるんだ。そしてそのビックリさせる靴はどれもイタリアだったんだ」
男はこんなことを嬉々として語る。
「どこまでもどこまでもついてきてくれそうなアメリカやイギリスの靴も良い。でも靴が僕を支配しようとしてくるのはイタリアの靴だけなんだ」
ここまでくるともう訳が分からない。よっぽど気に入ったのだろう。
男はTANINO CRISCI、Bolliniの靴が凄く好きだそうだ。
履くとピリッと気合いが入る。Church'sはいつもそばにいてくれる白い器の様な靴だと話すが、これらは少し違うようだ。マッケイ製法の屈曲性や軽さからか靴が勝手にどこかへ言ってしまいそうだとも話す。
「それに何よりイタリアの靴はデザインで技術の確かさを出すんだ。これは素晴らしいよ!!」
どこの靴もそうだと思うけども実際の所はどうなのだろうか。
しかし、彼は衝撃をイタリアの靴で覚えた。だから彼の信じるイタリア的なそれを自分のために作ってくれるところを探し、見つけた。
「お店にいった時にピンときたね。偉いところに来たもんだって思ったよ。絶対作るならここだって」
男は嬉しさで震えながら一度目は帰宅。二度目の来店で作ることを心に誓い、昨日再訪。念願のオーダーとなった。
「色?もちろん赤だよ。赤。だってこの赤が好きなんだよ」
スマートフォンに移るその赤は本当に赤い。これで大丈夫か??と心配になるほど。
でも男の顔は真剣だ。自分がその赤を誰よりも愛し、履きこなせるという自信があるように感じる。しかも矢継ぎ早に
「僕はね、ダスキーブラウンが好きなんだ。だからそれも使ってコンビにしたよ!」
と。呆れた物だ。
「でもね、何より大事なのは、というか楽しかったのは職人さんとの話し合いだ。自分の感性と相手の感性がぶつかる。そこが面白い。ステッチの色で最後の最後まで迷ったんだけど、そこはおすすめを聞いたよ。だって向こうの方が作る靴に関しては一枚も二枚も上手だろう??僕のイメージだけを伝えてその通りに『はいできました』なんて、向こうからしたら仕事とはいえ面白くないじゃないか。時間なんてそんなに長くはとれないんだろうけど一生懸命話したね。だって自分の靴なんだけど、職人さんの靴だからね。お互いによく話すことで息を合わせることが極めて重要に感じたんだ」
最もらしく語る彼。その後彼は
「最初は赤だよなぁー。衝撃を覚えた靴にそっくり赤!!」
と去り際に言っていたことを私は聞き逃さなかった。
二年後までお楽しみ。