Re:11colors

毎週木曜日更新(2023年5月現在)。模型、日常。面白いことあれば他の日も

てつじ屋の靴が出来上がった

 

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2年待ち。

「街の靴屋」という認識が割と靴好きの中では一般的(?)なイタリアのフィレンツェにあるマンニーナ(MANNINA)で修行を積んだ上田哲司さんのお店。

私は色々な靴が好きだが、造形センスが群を抜いて良かったなと記憶しているのがマンニーナでディテールの抜き差し加減が見ていて楽しい靴で一目で惚れた(実際に見られたのは本当に数回)。

オーダーをするときも「マンニーナの靴を見てとても感動したので来ました」と素直に話してしまうくらいに好きだ。デザインに関しては最初は外羽根の靴でということでこの形。つま先のY字のモカ縫いは最初に惚れた形に近いものがあったのでそれに。

色もその靴に沿った形で赤。それと当時一番好きだと思っていた黒に近い焦げ茶。

赤も焦げ茶も未だに好きだから良い選択をしたと思う。当時はブーツを一足も持っていなかったので少し丈を伸ばしてもらった。

 

採寸とサンプルシューズを履きながらの微調整で木型に必要な要素を集めていくのだけど未だにはっきり覚えているのは測定中に「指は25cmの人並みの長さで指の付け根から踵までが23cmのサイズ。だから24cm~24.5cmの靴が履けるけど前が詰まるでしょう」と言い当てられたのと、サンプルシューズを履いてフィッティングを見てもらっているときに「ベロの部分が当たってると感じるのは他が少し緩いからで、均一に包めば大丈夫」「甲はつま先部分は薄いけど足首にかけて急に立ち上がる」と言った話。指の長さの関係からつま先は1.5cm~2cm長く修正。

 

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私はイタリアの程よいロングノーズの靴には非常に好意的なのであまり不安はなく、どういったものが上がってくるのか楽しみで仕方がなかったが、それにしてもこのデザインにすることでYの縫いが非常に優雅に見える。品が異様に漂いながらも色が元気な組み合わせなのでその不均衡さが生み出す姿はツンとした気取りっぷりでとても良い。

コバ(底の側面)は天然の染料が幾重にも塗り重ねられていて茶色の表情が綺麗だ。何となく履いている姿をガラス張りのショウウィンドウ越しに見るとその奥底から滲み出るツヤが持っている靴のどれとも違うことに気づかされる。

履きやすさはさすがにイチから作ってもらっているだけのことはあるので説明をする必要もない……訳にもいかず踵の高さが姿勢を正しくさせ、意図的にソールの曲がるところを作り出すことでとてつもない返りの良さを生んでいる(TANINO CRISCIみたいだ)。

足の裏側が当たるところまでも立体的に作られていて正しく足を固定することに如何に腐心されているかがわかる。

割と良くある「土踏まずを絞り込むことによって得られるフィッティング」とは違う固定の仕方を感じさせ、今までに体験したことの無い履き心地。

この靴に関しては細かい話を抜きにすると何よりも細長い造形とそれに沿うようなY字のモカ縫い。そしてそれを存分に主張させる鮮烈な赤、と赤を際立たせる茶色。といったところだろうか。先端は薄く、足首に近づくにつれてギューッと高くなる私の足の甲に沿って偶然的に生まれた曲線の美しい靴に仕上がっているのも楽しい。

2年間、待つ価値は間違いなくある。次は何の形を作ろうか。