Re:11colors

毎週木曜日更新(2023年5月現在)。模型、日常。面白いことあれば他の日も

何者でもない者の声

 

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はてなインターネット文学賞に応募しよう」と思ってブロガーが推薦する記事をざっくり読んだ。そこには「これってインターネット文学だよね」という話が載っていてどれも興味深かった。まさにインターネットが持つ面白さについて触れているし、ある意味で「やっぱりこういうのだろうな」と思うものがあげられていた。端的に言えば「私の知らない世界を情熱をもって語っているもの」がそうであるというような話だ。インターネットは様々なものが載っているのに、見る側がそういう規定をしている部分があると思う。いいかどうかはわからない。ただ、やっぱり毎日上がるバズった文章というのは、さっき言った通りで「私の知らない世界」の話でそれを読み手が評価するから目にする機会が多いし、それを書く人も増えるのだろう。

 

そこで、書く側の話だ。僕にとってインターネットにおけるテキストというのはある時期を境に「特定の人に届くかもしれない手紙」になった。それはプラモデルを作り始めたときからだ。

 

 

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超音速備忘録というブログがあるのだけど、そこには未組み立てのプラモデルを語ったり、スケールモデルといわれる戦車や飛行機などは一色のプラスチックで製品化されていることが多いのだけど、それを塗装しないで仕上げることを「刺身」と評して楽しんでいる様子が載っていてとても面白かった。すぐにプラモデルを買ってきて私も「刺身」をした。難しいと思った接着剤の使用もなんてことなく、驚くほどに簡単に作れたし、無塗装のプラスチックの美しさに衝撃を受けたし、それと同時に「プラモデルって、まだ文章化されていない魅力がたくさんあるな」と理解した。

 

何せ、調べてみるとわかるが、プラモデルの製作記事といえばどこがどう動くだとか、ここはこうやって作ろうとかそういう話が多い。そうでない部分というのはモヤモヤとテキストにされることなく漂っているし、それを何の知識もなしにつかむのは相当難しい。きっと今こうして読んでくれている人も「接着剤って難しい」「塗装はするものだと思っていた」と感じているのではないか。だって、そういうものとして世の中では話されているから。

 

 

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だから、なおのこと超音速備忘録はまぶしかった。そして彼に「俺もいるぞ!しかも、俺はきっとあなたの期待に応える良さを出せるぞ!」と声をあげるようにプラモデルの記事を書きだした。何者でもない俺が、急に鳴き声のようなものをあげる。「見つけてくれ」「見つけてくれ」と。

 

結果、比較的早く観測され、そこから交流が始まった。僕が面白いと思うもの、彼が面白いと思うところ。どこが面白かった、こういう書き方をする人はいない、と沢山ほめてもらったし、Twitterでも広めてもらった。気づいたら僕のTLはモデラ―ばかり。

 

多分だけど「なんだか俺の知らないプラモデルの楽しみ方をする奴がいる」と珍しい動物でも見るようにフォローされたんだと思う。だから、なおのことそう振舞った。「俺は絶対にレシピサイトのように制作の手順は書かないし、モチーフとなった戦車や飛行機の解説はしない」とかなんとかいって。鳴き声が、言語的な意味を持ち始めたと思う。言葉は悪いかもしれないけど「俺はすでにインターネットにあふれている既存の楽しみ方はしないし、書かない」なんていう風な感じで、想定内の面白さに収まらないように暴れていたと思う。

 

 

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インターネットにおけるテキストは読む側が「こういうのが良いよね」と規定してしまえば、そのようなものがあふれると思う。文章なんてほとんどの人が真剣に書いたことがないのだから、余計にそうだ。携帯小説のシチュエーションがどこか似てしまうように。

 

プラモデルで製作記事が多いのはブログブームみたいなころに、それを始めた人がいて、賛同して真似したからだろう。特に影響力が大きい人がそうすれば、その傾向は強くなると思う。「これって文学だよね」なんていわれたら「そうか、これが文学か」と感じてしまうように。そこが難しい。

ただ、書く側として自分が思うのは「何を書いてもいい」ということだし、それだと無責任だから「特定の誰かに見つけてもらうように記事を書く」というのは悪くないということを提案した。製作記事だって互いを見つけあうための鳴き声や手紙だったと思う。そういう風にインターネットにおけるテキストというのは作用してもいい。

 

そうそう、何者でもない俺が急に声をあげてどうなったと思います?

 

 

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実はそのあと何回か模型専門誌にライターとして記事を書いた。雑誌の編集者に見つけてもらえたのだ。また、超音速備忘録のからぱたさんとフミテシ道楽のふみてしさん(彼もすごいブログを書く人です)が立ち上げたnippperというプラモデルのウェブメディアに週に二回記事を書いている。大成功だ。自分の声が、多くの人の声と交わって文化になろうとしている。

 

だから、衝撃を受けたものは文章にして声をあげましょうと言いたい。漠然とした読む側の規定に引っ張られなくていい。需要みたいなものが見えてきたりとか、バズらせたりとかそういうこともできそうな気がしてもしなくていい。ディープじゃなくていい、マニアックじゃなくていい。「からぱたさん!俺を見つけてくれ!」なんていう叫び声は火種になって思わぬ世界に俺を連れて行ってくれたから。

 

きっと、あなたもインターネットのテキストがジェット機のようにどこか遠くへ飛ばしてくれる。

 

はてなインターネット文学賞「わたしとインターネット」

 

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