Re:11colors

毎週木曜日更新(2023年5月現在)。模型、日常。面白いことあれば他の日も

溶け合わないあなたとわたし -「ボールルームヘようこそ」を見て-

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アニメ「ボールルームへようこそ」を知人が絶賛するので見てみた。

主人公の富士田 多々良が競技ダンスの世界にのめり込んでいく中でダンサーとして成長してく、みたいな話なのだけど1クール目は彼の目の良さ・観察力の鋭さがダンサーとして枠外の成果を発揮する素である様子が描かれているが、2クール目になると長所が裏目に出て合わせよう合わせようとするがゆえに「自分の無さ」にぶつかる。

競技ダンスは共に踊るパートナーあっての世界ということもあり、カップルを組む相手によって、目の良さや観察力がもたらす成果がまるで反対のものになる様子が面白かった。

 

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このアニメを見ていて個人的に好きだったのは、登場人物が他人と自分を比べて劣等感を抱くシーンがほとんどなかったことだ。第三者がそれぞれのダンスを比較するシーンはあるが基本的に彼らは全員「自分のダンスに熱中している状態」なのである。

 

この手の「基礎能力はないけど並外れた個性で活路を見出すタイプのアニメ」はだいたい主人公が「自分には〇〇さんのような基礎(あるいは経験)がない……」みたいな話になるし相手は基礎と経験のところに「発想」とか「アイデア」なんて言葉がくるようなことを思うのだけど、そんなことほぼお構いなしでガンガン踊る。まぁ、競技ダンスを取り扱うという特性からパートナーと自分は今どうなのか? という描写が多くを占めるからというのはあると思うけど、基本的に他の組は他の組であって「自分たちは今このときにできることをやりきる」という感じで、それが好きだなと思う。

 

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上達方法以前に、目指す道がそれぞれ違うことが「どのジャンルの踊りが好きなのか」「何のために踊るのか」などを通じてしっかりと提示されながら、アニメ終盤ではライバルの踊りと主人公たちの踊りは「スタイルが違う」とはっきりと比較させられる。上手い下手というよりは海と山は同じ旅先ではあるが違うよね、というくらいにわかりやすく描かれていていた。それに、競技ダンスという世界の中で言えば、踊り手の身体的特徴や言葉にならないリズム感や雰囲気に、誰に教わったのかが掛け合わさっての成果なので、とにかく多彩でだからそれぞれの個性が際立ち、認められる世界なのだろう。

 

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「分かり合わない人たちの話」というか、なんだろうなこれ。なかよしクラブにならないでぶつかり合いながら「そもそも、人間ってある意味問題だらけだよね」というテーマを抱え続けて「じゃあ、今この瞬間で最高の成果を出すにはどうする?」みたいな感じで頂点を目指すからこその、高次元での、あ、そうそうこれだ。「息を合わせる」ってやつ。カップル間ではこれが強く押し出されていると思う。だから苦しかったり、その推進力で次なるステージへ行けるという意味では2クール目のパートナーは、面白いですね。

 

世の中の多様性の結果が、ある意味で認め合うことで生まれる、”しあわせ”な空間みたいな、自分と相手が薄く溶けて混ざり合っていくような方向の中、バチバチに違う人たちがパートナーとして、あるいは競技相手として異なる個性や性分を披露しながら「自分とは」「相手とは」というテーマを描き続けているのはとても良かった。

 

それを支える背骨のような感じで、主人公の師である仙石は「見てもらうこと」を競技ダンスの大切さとして語り、その他の周りの大人たちは「楽しむもの」「人生を豊かにするもの」「この世界がどこに向かっていくのかが楽しみ」みたいな話をしているので見ていてとても気分のいいアニメでした。

 

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比べず、いじけず、自分を研鑽する、そして個性がぶつかり合う。だから多彩で面白くて、見ててワクワクする。悲しいほどに他人と競い合う世界の持つ良い側面が描かれている。

 

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