レジでバイトの若い男性に「飲み物を横に寝かしていいですか」と聞かれた。
悪くない提案だと思った。
何年も通っているスーパーマーケットで買い物をするときに、ついつい「レジ袋に詰めにくいアンバランスなサイズの買い物」をしてしまう。例えば2リットルのペットボトルに弁当とか、1リットルのすっきりCA鉄2本に、サラダとコーヒーゼリーとか。それがどういう事態を巻き起こすだろうか。縦に長く重さのある飲み物に並ぶ形で背の低い弁当だとかサラダが入るので、台の上では安定しているが、持ち上げると瞬時にバランスを崩す。しかもレジ打ちの人がお客の方に向けて持ち上げて渡す場合は「売る側が袋詰めにした商品を傾けてしまった」という気まずい状態になる。
このときはむしろ私が持ち上げてバランスを崩したいとすら思うくらいの気分になるが、冒頭の彼の提案の通りで「飲み物を横に寝かせさえすれば」袋の重心は安定するので、そんなことにはならない。私はかつてコンビニで働いていて、積極的に寝かして良いかを聞く店員だった。ただ、直接バシッと言えないタイプだったので「横に寝かした方がキレイに入るので」とやんわり言っていたけど。
ここで注目したいのは、若い男性が「ある日突然いいだした」ということで、それまでどの店員もそういったことは口にしなかった。このスーパーマーケットで働く若者は長くても数年で入れ替わるので、おそらく大学生がほとんどで、その中の彼だけが急に「飲み物を横に寝かしていいか?」という提案をしてきた。それを初めて聞いたとき、私の目には彼が「初めてナマコを食べた人」だとか「こんにゃくを作った人」のような、文化の始祖のように写った。地元のスーパーマーケット(いってしまえば「まいばすけっと」なんだけど)はしばらく通っていると、正社員を務める店長はかなりの頻度で入れ替わる。
きっと現店舗の業績が上がったり下がったりして、異動していくのだろう。そうすると、そのスーパーマーケットの風土を作るのは、代わる代わる店長を務める正社員よりも、ずっと長く勤めている地元に住んでいるパートのおばちゃんだということがよくわかる。そして、正社員よりも詳しいパートタイマーの方が教える、ローカライズされた「この店で手っ取り早く戦力になる方法」で鍛えられる、数年単位で入れ替わる大学生が、ぽろっと「飲み物を寝かしていいですか?」なんて新しいことを始めて、それが同期や後輩に受け継がれたりなかったりする。
とりあえず、私は飲み物が横になることで中身がこぼれたことはないので、縦に入れられて隣の弁当がズサーッと傾くよりは良いと思います。
今日の物販