痕跡という言葉を、どれだけ意識したことがあるだろうか。
ジーンズの色落ちは「味」と言われるが、あれは正確に言えばその人がそれをどのように扱ったのかの痕跡だ。そう思うとビンテージライクにするために洗わないなんてのが途端にバカバカしくなる。
帰り道、行ったことがあるような、ないような店が潰れている。数カ月後には、取り壊され新しい建物が作られるような気配がする。その先のあの店は、まだ店も看板も残っている。ああ、あそこは揚げ物がうまかった。そういえば最近よく行くカレー屋はパスタ屋の居抜きで少し、その雰囲気が残っている。
新しい建物は以前の痕跡を消してしまう「あれ、あそこなんだったっけ」。残っているものはそのまま。でも、当時の人がいた様はもう無い。その痕跡だけが残る。
居抜きは、建物の痕跡も人の様子も、お互いに少しだけ残る。
私はそういった「痕跡」が好きなのだが、それを自分の手で、意味のあるものにコントロールできるとするなら。
ハセガワの1/72ライトニングF Mk.6は箱を開けた瞬間のあの独特なフォルムに頭を抱えた。外したような当てたようなあの感じ。ただ、だからこそというものも有るだろう。こうして塗り分けることに躊躇はなかった。ゴメンな。ただ、誰も知らない魅力を引き出せたと思う。
塗って貼ってみてわかるのは合わせ目が生み出す特異なストライプ。翼の上に設けられた増槽がそれを実現させている。消えてしまう合わせ目、一体であるべきそれぞれの部品。私たちが普通に作ると意識もしないこの美しい縞模様。色を塗って明らかにする。
その、強制的に浮かび上がらせられたストライプは、独自のメリハリを生み出す。味のある、独特のプロポーションは、そのメリハリを鋭すぎないバランスに着地させる。
いつだって、いつまでもこんなトンチみたいなことをずーっとやってて、楽しいわけはないんだろうけど、合わせ目が生み出した華麗なストライプには、見えているのに見えていない。作っているようで作っていない。わかっているようでわかっていない。そんなことを思わされる。
なにせ、こうであることが美しいキットが今まで自分が作ったものにどれだけあったかなんてことを見る目がなかったので知らないし、箱を開けたときに
「いくらなんでも銀に塗ればどうにでもなるって言っても、これは少しかっこ悪すぎたかな」
なんて思ってしまったからだ。
今日の物販

Willisau and All That Jazz: A Visual History 1966-2013
- 作者: Niklaus Troxler,Olivier Senn,John Zorn
- 出版社/メーカー: Till Schaap Edition
- 発売日: 2014/03/26
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