今回は先日の第23回文学フリマ東京で販売した新作「紳士靴十八話」の話です。
どこまで、何がしたいの
紳士靴十八話(以下:十八話)は本を一冊作る上で私が試みたかったいくつかのことを導入した本です。
前作紳士靴九話(以下:九話)と違うところは「ものを作る上でやりたかったこと」に舵を切っている事で、九話は「少しでも多くの部数を販売すること」にそうしていたことを書かさせてもらいますとそれぞれの毛色が違うのがぼんやりと見えてきます。
わかりやすく、靴の絵が表紙を飾る九話
華麗に、品が良い十八話。
とにかくオーソドックスな九話と趣味性の高い十八話という対比になりました。
大事なのは、なんだ??
十八話を作る上で意識をしたのは九話で取り扱わなかった題材や切り口がどの程度良いものとして手に取ってもらえるのかという点です。
取り扱ったものは(十八話を読んでいていただいた方はご存知かと思いますが)私の生活の周りにある靴と、靴を通した空想やそこから読み取れるドラマなどで、反対に取り扱わなかったものは
・靴の底づけ製法(ハンドソーン、グッドイヤーウェルテッド、マッケイ……)
・靴の形や素材の辞典的な説明
……などなど本当に探せばすぐ出てくるものでなおかつ、私から見て文学に興味のある方に不必要に感じるもの。大事なのは私が何を、どう感じているかを絵と文章で表現することで、靴も何十足も履いているとどれも可愛く見えてくるものです。なので持っている靴に優劣をつけようなどとする気も起きませんし、これほど不必要なものもない気がしています。
こうしたものを自分の頭とときどき靴の力を借りて書いてみるとまだまだ新しいものが作れそうだなという予見もありました。
作りたいものができたのでこれは非常に満足だ!表紙も敬愛するデザイナーのニクラウス・トロクスラー氏を強く意識したものが出来上がったぞ!
で、これは売れるの??
どうだろう……。
今までは売れるところまでを想定してコンセプトを決めていたのでこの不安はありましたし、結果的にこの愛すべき表紙がどう機能したのかは未知数なまま。
強いて言うなら
九話の分かりやすさをほどよく引き立ててはくれましたが。
と、ここまでは新規のお客様の話。
新刊ください。/以前もお会いしましたよね。
いつだったかの反省にも書きましたが気づいたら「新刊ください」と言ってくれる人が何名か増えてきました。
そういった方にはすでに四十七話、九話のイントロがありますので十八話は普通に買ってもらえました。毎回靴という太陽を月のようにぐるぐる回りながら「こんな見せ方もあるよ!」「こっちはどうかな!!」と様々な形を作っていますが、それを楽しんでいただけたのなら幸いです。
また、新規の方でセット買いをされた方にもこの様子が違う表紙たちが世界各国を題材にした「美しき、〇〇」のコピーでおなじみの雑誌のように「お、この表紙のテイストは…ふむふむ……」などと
靴という狭い世界のいろいろ
をなんとかしながら表現しましたのでワクワクしていただけるきっかけになっていれば嬉しいです。
「もっと部数を伸ばすためにわかりやすくマイルドな表紙にするべき」VS「毎回デザイン空間を掘りながら新しい何かに辿り着くべき」
というせめぎ合いは今後も続くでしょう。
それではみなさん、次はいつになるのか。そのときに会いましょう。