私は以前、小さなデザイン事務所にいて数年間レイアウトを主に携わっていたのだけれども
・扱うものが堅い
・事務所内で「OK」とされるデザインが割りと古式ゆかしいものだった
・提供される素材があまりカッコの良いものがなかった
という状態で、なかなか苦戦した記憶は鮮明に残っている。写真をバシッと一枚とかできないことがほとんどだった。
しかし、そこで得たものは今の私の同人活動にかなり役に立っているので今となってはかなり感謝している。
そんな私が「ああ、これこれ。この手間、というか配慮よ」と思ったのがKindle Unlimitedの対象タイトルの「山と渓谷」。
個人的に「クラシックなレイアウト」と「細かな部品づくり」に好感を持っているので、レイアウトに関心がある方にKindle Unlimited初回30日間無料体験で見る一冊に加えてほしいと思った。基本的なものではないものもあるが、見ていて印象的だったものを上げていこう。
この辺の細かな解説をきっかけにレイアウトに関心を持ち、基本を踏まえながら制作に取り掛かろうとするのなら、indesignなどを導入し、文と絵、写真などを織り交ぜて作成する形での同人制作も前向きに検討することはいい案だと思う。
平面構成的な写真の配置とわかりやすい粗密さ
「気のせいかもしれないけど、これやってるところって見たことないんですが」
と当時思いながら、教わったんだけどあのとき山と渓谷に会えていれば人生は少し違ったかもしれない。
山と渓谷2017年8月号90ページ、91ページより引用
レイアウトを見てほしいので引用しました。文章などは関係がないのでぼかしをかけています(以下同)。
右ページの大小様々な四角形の写真を巧みに組み合わせてページを作っているのが印象的。これは私も旅行記的な記事や式典の模様などのページによく使った。
・沢山写真を使いたいけど、多くのページを割く訳にはいかない
・文章と写真を割りとしっかりと連動させたい
場合は私の事務所では割とこうなった(実際にページは1日目、2日目と日程で分かれるような構成で、後者の理由が該当している)。「なぜこんな複雑なシェイプを全体で描くものを作るのか?」と訪ねたことがあるが「その方が誌面が豊かになるよね。見ていて単調にならないし」と返されて当時はなんとなく納得していたがその後職を離れてあまりレイアウトの良くない雑誌を見ていると「ああ、これね。最後まで読むのがしんどいやつか」と、ゴールキーパーのように目立たないほうが却って全体の調子が良いようなそんな役割もレイアウトを良く構成する必要性を感じたりもした。
「なるほど、これがすごいのか。ではこれを参考に……」
ちょっと待って欲しい。
この複数の写真を構成したページの反対のページを見てみよう。
大きな写真を二枚取り扱っている。
これがもう半分小さい写真を四枚だったら?六枚だったら……。
そう考えると見開きのページで考えたときに左右のボリュームがはっきりと別れているのが伺える。
・大きな写真で誌面を作る
・細かな写真を組み合わせて誌面を作る
このコントラストをはっきりと取っているのが、美しい。
ちなみにこの前のページは見開きを美しい写真一枚でしっかり見せているので
1.壮大な写真の見開き
2.細々と道中を見せる次ページ
3.先頭よりはボリュームは劣るが壮大な写真の対抗ページ
と続いて壮大なハーモニーが奏でられているのも見逃せない。
ちなみにその後は
4.夕暮れが美しい2.と3.を混ぜたようなページ
5.登頂した山の基本的な情報をまとめたページ
とさらにボリュームが増しているのでぜひ見てもらいたい。
こういったバランスをオーケストラの指揮者のようにコントロールし、そしてそれを完璧なものへとガイドするために機械のように秩序を守る。これこそページ物を作る楽しみだろう。
手間だけど、アクセント
仮に、今回引用している山と渓谷のページの様なものを作るとしたら大体のものが四角が占める。縦横の世界。そこで加えるアクセントの一つは「斜め」。というわけで先程の引用画像にもう一度出てきてもらおう。
右ページの左下部分に斜めになった写真がある。これは食事中の写真だがニュアンスを考えると「険しい道程の中でちょっと息抜き」と考えることができる。そこで縦横の世界のルールに縛られない斜めの写真を置く。これがアクセント。四角四面の世界に一個、これがあるだけで随分違う。ちなみにニュアンスだけでなくこの写真だけ自然ではなく人がかなりメインの割合を占める写真なので「他の写真と属性が違う(から扱いを少し変えてみましょう)」という考えがあるのかも、と判断できる。
ホチキス留めとしてのマーク
「こういうのを地味に作ってやるのがね。こうね(面倒だけどやらないとね)」と思いながら見ていたのが右ページ右下にあるマーク。
これは簡単にいうとホチキスみたいなもので、膨大な資料という名のコピー用紙の山を「これは意見をまとめたもので、こっちはデータ。でこれはまた別の人のか……」とホチキスで綴じながら分類しているようなもので、このページには「登れ!日本の3000m峰 全21座」と銘打った非常にキレイなマークがデザインされている。このマークが同様の特集ページには所々に打たれている。これによって「ああ、同じ特集のページなのね」と理解できる。オーケストラ例えを続けると曲目を判別させる役割といったところか。
最後に
いつかは山と渓谷のレイアウトの良さを書こうと思ってたが、そのきっかけはKindle Unlimitedの紹介プログラムがスタートしたことだ。
実際に書いてみるとこういった、シンプルで一見目立たないような気遣いが誌面によくできた誌面には多く隠されていることを改めて知れたことは私自身のメリットだったが、これらを知り、チャレンジしたりすることの楽しみが同人制作にも合っても良いと思うという気持ちが少しでも伝われば嬉しいと思っている。
また、こういったレイアウトを行うことで文章と写真はうまく絡み合いそれぞれがそれぞれを引き立て合う存在になる。
絵と言葉の一研究/寄藤文平著 にも水素と酸素が合わさると水になるように、絵と文が合わさると何か別のものになるといったことが書いてあるがそれに非常に近いことが起き、自分が書いた文と、写真や絵が「それぞれ独立した何か」ではなくなり良いものが出来上がると私は信じている。
また、冒頭にも書いたがこういった手の込んだ何かに挑んでみようと思えればIndesignなど各種専門ソフトを導入してさらなる制作のステップを踏むことも有意義に思えるのではなかろうか(導入したがする前とあまり変わらんものができた……なんてことはなりにくいだろう)。
- 作者: ヤン・V.ホワイト,Jan V. White,大竹左紀斗
- 出版社/メーカー: グラフィック社
- 発売日: 2007/11
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冊子制作の全体を学ぶにはこの本がおすすめだが、今は絶版となっているのかマーケットプレイスのみの出品なのが惜しい。他にも何か探してみても良いかもしれない。
まずは、Kindle Unlimited 無料体験期間に山と渓谷を研究し同人誌制作時のレイアウトについての引っかかりを探ってみてはいかがだろうか。