Re:11colors

毎週木曜日更新(2023年5月現在)。模型、日常。面白いことあれば他の日も

誕生日

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9月26日は、俺の誕生日だった。

 

昨年は俺のことをよく知っている人ならご存じの通りでとんでもない出来事に巻き込まれてしまって、そこから人生の基盤は揺れに揺れ、結果的に多くのものを手放すことになった。ただでさえ少なかった血のつながりのある人と連絡を取ることはなくなり、自分が今住んでいるところを知っている人も、いつも髪を切ってくれる理容師の人と、中学校の友人とかそんなもの。とにかくあの日以来最悪な状態はずーっと続いてしまい、かなり困っていた。

 

そこからなんとか1年生活できていて、それは自分が獲得していったコミュニティの中の皆のおかげだと思う。画面上のやり取りでクスクス笑ったり、互いに興味関心を寄せるものを披露しあったりすることは俺の知的好奇心を満たしてくれたし、ある意味では残念だけど、それさえあればなんとか生きていけることがよく分かった。


その表れなのか今住んでいる部屋には布団もベッドもないし、自炊をする設備はあるものの行うことはほとんどなく、好奇心を満たすだけの部屋になっている。夏ごろに知り合った何人かにその話をしたら「え!?」と驚かれたり「今はそういう時期だからいずれベッドを買う日が来るから、そのままでいいんじゃない」なんて言われたりした。今は何が正解かはわからないけど、しっかりと自分が形になっていく感じがよくわかる。頭も冴えてるし、コンディションもだいぶマシになっている。

 

春頃に呼んだマンガに「人間には生きる仕組みが備わっている」というようなことが書いてあって「ああ、なるほどな」なんて思いながら生きていたけども、これは驚くほど正解で、どうにかして生きようとしてしまうようだ。辛い出来事自体は覚えていても、その感情は忘れるし、忘れられるように、いろいろな出来事を肯定的にとらえたりして目の前の景色の映りを塗り替える力が人間にはある。

 

正直な話、今年の誕生日は来なければいいと思っていた。
嫌な気持になるからだ。というか、来年も再来年も来なければいいと思っていた。一番うれしい日が一番最悪な日になってしまったのだから。ただ、今年はめちゃくちゃいろんな人に祝ってもらってびっくりした。祝ってもらえるってうれしい。嫌な気持ちもだいぶなくなった。それに賞もとった。賞といってもいろいろあるけど、自分で獲ろうと思ったものを獲れた。俺はまだ生きている。まだ大丈夫だ。
昨年の誕生日に贈られたプレゼントは神様のように部屋に保管してある(作ってくれという思いでくれた皆様、ごめんなさい)。

 

ここからは物販です

 

 

 

 

何度でもミリタリーミニチュア

 

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意識して色々なプラモデルを作ろうと思っていて、模型売り場をうろちょろすることも増えた。前はスケールモデル一辺倒っていう感じで他の売り場は見なかったけど、最近はキャラクターモデルも見るし買ってみようかなと思うこともあるし買うこともある。ポケプラとか、いいですよね。ただこれは仕方がないのだけどプラモデルの多くは私なんかよりも遥か下の世代がターゲットなのでパッケージがポップすぎたりして「俺はこれからこのプラモデルを作るんだぞ……」という気持ちにはなりにくかったりする。

 

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その点においてタミヤの1/35 ミリタリーミニチュアシリーズの白箱の清潔感と大人っぽいパッケージの美しさには本当に恐れ入る。買うときもプラモデルはプラモデルなんだけど「俺はこれからミニチュアを作るのだ」という気分になる。なんというか買わせようという見た目じゃないというか、そういう良さ。ドラッグストアで消費者の注目を集めるためにベタベタとシールを貼られた製品のように「買ってくれ!買ってくれ!」という声がしなくてそれがよくて、時計なんかでも「なんだかんだでロレックスだよね」と落ち着いてしまう感じというか。品がある普通のプロダクトというツラをしてプラモデル売り場に置いてある。

 

ただ、プラモデルという趣味は製品の価格そのものが安いのでロレックス的なものをポンっと買うことができる。そしてそれが多くのタミヤ製品のスケールモデルだ。約束されたパーツの精度、さらにミリタリーミニチュアに関して言えば情景を生み出すための人と乗り物の組み合わせ。私は最初は「プロダクトとしての乗り物」という観点で軍用車両を作ったが、いざ「完成」と思った後にクールダウン感覚でフィギュアを作って乗せてみたところ完璧な情景が生まれてしまい驚いたことがある。

 

その後ある程度塗装をするようになったり、海外製のキットに手を出したりとまさに「モデラー」といったような動きをしているが、どんなに塗装ができても難しいプラモデルが作れるようになっても、こうして無塗装のミリタリーミニチュアを作ると、組み立てる側が決して超えることのできない壁みたいなものを感じる。この余計なものが何もない状態で部屋にあるというのがかっこいいのだ。

 

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プラモデルは塗装しなくてはならないという気持ちもわかる。私も随分と作ったのでプラモデルを買うときに「これは何色に塗ろうかな」なんて思うときも増えた。ただ、そうやって「俺がこうしてやろう」と思えば思うほど、このかっこよさからは遠ざかるし、魅力には永遠に気づけない。気づけなくてもいいんだけど、気づけると楽しいと私は思う。私は何度でもミリタリーミニチュアを無塗装で作って楽しみたい。

 

今週の物販

 

 

 

 

 

タンポポ/KREVA feat. ZORNにnippperの未来を見る

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地続きで体験し続けているカルチャーの一つに日本のHIPHOPがある。中学生の頃にKICK THE CAN CREWやRIPSLYMEが売れたりしてHIPHOPは一気に、それこそただの中学生の俺にまで届くようなものになった。それに映画「凶気の桜」(見てないけど)なんかでアングラっぽかったりギャングスタラップっぽかったりするものも王様のブランチのコーナー内でのCDTVで流れたり、学校へ行こうB-RAPハイスクールみたいに面白さの装置として扱われたりと、そういう風にHIPHOPの幅みたいなのを味わったりしてきて、当時夢中になったMTVの影響などに包まれながら俺は今の今まで洋邦問わずHIPHOPが傍にある人生を過ごしている。

 


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9月8日、KREVAが突然ニューアルバムをリリースした。9月8(908、クレバ)日にちなんでということなので彼を知っているのであればなんてことないのだけど、それに収録されているのが、表題のたんぽぽという曲だ。この曲はシングルでリリースされた時になんとなく聞いていたけど、改めて聞くと「ああ、日本のHIPHOPというのは一周したのだな」と感慨深いものだった。というのもKREVAKICK THE CAN CREWとして三人で年末に点滴を打ちながら武道館からTBSまで行っていた全盛期には彼らにとっての「こうなりたい」というラッパーとしてのモデルがいなかったのかもしれないと気づいたからだ。

 

もちろん当時のKTCCの楽曲の歌詞には「プラダよりナイキ、グッチよりアディダス」というような感じでブランド名をあげながらサクセスストーリーを匂わせる世界観を描くものはいくつかあるが、実在するロールモデルはいなかったのではないか(もちろんレジェンドとしての様々なアーティストはいるが、当時の彼らほどテレビに出てチャートを賑わしたのかというとそうではなくあくまでもコミュニティ内での成功だったと思う)。ただ、たんぽぽを聞いてみるとどうだろうか。ZORNKREVAのように成功したいかはさておき、ZORNを受け止める側としてのKREVAという構造が成立していて、非常に驚いた。以前は、ラッパー同士のコラボというと仲間であったり、せいぜい先輩後輩程度の距離感で彼らの言葉を借りると”クルー”的なつながりというか、世代が近い感じがあった。ただ、たんぽぽでの二人の今のアーティストとしての立ち位置を考えると、現在ほとんどアングラへ関与をしないKREVAがメジャーシーンで切り拓いて築き上げた、コミュニティを超えたHIPHOPの居場所というのが確かにあるのである。

 

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そこでnippperのことを考えてみると、nippperは「よし、やろう」という感じで本人たちは「見切り発車」と時折いうものの、二人が何をやってきたのかを考えれば、スキルのある人がついに楽曲をリリースしたような感じに見えるし外へ外へと向かう推進力があると思う。

 

俺にはnippperがどうなるかはわからない。だから楽しみだし楽しい。よその文化には成功のロールモデルがある感じはするが、プラモデルに絞った場合は俺にはいまいち見えてはいない。ただ、原稿を定期的に提出しているし、掲載もされている。そのおかげで写真も上手くなったし文章も賞を取れるくらいには上手くなった。もちろん、プラモデル作りも。「手伝っている」と思うときもあるし、俺は俺で自分で「こう書いたらいいんじゃないか?」と考える部分ももちろんあるので異なる声として一翼を担っていると思うときもある。記事数も2人の次くらいには多いんじゃないか(癖のある記事がそれくらいの割合というのも怖いが)。

 

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表題のタンポポKREVA feat. ZORNを聞いているとコミュニティを超えて成功した人間が下の世代を受け止めるということの文化の芳醇さに驚かされる。プラモデルとHIPHOPは全然違うけどコミュニティを超えた成功が持つ文化の中での重要な役割というのがよくわかるのであった。5年後10年後何処かの誰かが「nippperで書いてるクリスチさんのように」といって勢いよくどこかに飛び出ることがあればいい気がするし、その頃にも俺は相変わらずプラモデルを作って文章を書いてるか、もっと大きな場所で何かを書いていればいい。

 

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いろんなプラモを多くの人が作って感じることがそれぞれ違うということがもっと明らかになって、車にも船にも戦車にも飛行機にも興味がない人がもっと自然に「あ、プラモデルを作ってみようかな」なんて思える日が来たらそれは楽しいことだと思う。

 

 

今日の物販

 

 

 

 

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