カルジェロ・マンニーナという方をご存知だろうか。
彼はイタリアのフィレンツェにて靴屋を営んでいたが、9月の終わりにこの世を去った。
私は彼の名を冠した靴を偶然にも何度か見る機会があり、その度にその作りの良さに感心したり、足を採寸し木型を一から作成するにも拘らず10万円を切る(最盛期は6万円程度だったそうだ)という値段の安さが持つ一般庶民のために履きやすい靴をといったような風情に惚れ惚れしていた。
それこそイタリアを目指そうと心の奥底が沸々と熱くなることがあったほどに。
マンニーナは私の中では大衆靴だった。そして優しい靴だった。
先に話した制作方法の靴は(ビスポーク、ス・ミズーラという)往々にして高いのが常だ。それを安くあげている点、しかも仕上がりが早いということが私にその思いを強くさせたのだろう。また、とにかくキレイな靴が多かった。
しかし私はイタリア人ではなく、何よりイタリアに住んでいないのでマンニーナを本当の意味で堪能することはできないだろうという思いが心にあった。大衆靴でも、優しい靴でも飛行機で、イタリア語をたどたどしく話しながらではそうはならない。
私は私のマンニーナを見つけたいと思っていた。
そしてつい先月私はとうとうそれを見つけることができた。
ビスポークではないものの好意により木型を削ってくれ、値段も10万円も余裕で下回る。そして出来上がりまでも早く何より驚くほどに仕上がりが綺麗。私が見ていたフィレンツェのそれと近い(仕上がりに関しては越えていると思う)体験をすることができた。
コードヴァンで作ったので雨の日には履けないが、一足目にこの素材を選択したのは結果的に良かったように思える。二足三足と数を重ねる毎にオーダーの精度が上がり履き心地が向上して行く中で雨の日に履けない靴というのは履きやすさに対してケチがついてしまう可能性があるからだ。
私は甲が低いので甲に張り付くような革の質感を味わう経験は今まで無かったがそれがもたらす「履きやすさ」は他の何よりも代え難いということをこの靴で知った。
狂ったように靴を買い続けてきたがようやく本当に欲しいものというのを体験も含めて手に入れられたような、そんな気がする。