チロリアンシューズは山が多い日本の風土にあった靴かもしれないという話をここ最近は良くしている。きっとそんなこともいずれ忘れてしまう気もするが、たまたまそんな風に思わせるような話を幾つか見つけてしまって都合よく面白く解釈しているのが今で、だからそう思っているだけなのかもしれない。
「いつ無くなるかわからない」という考え方は失礼な気もするが、私の父が作って取引先に納品していた婦人靴は父がこの世を去ったところで廃盤となった。作り方がわからないことが理由だった。
なので、きっと作るんだったら今なんだろう。
中山製靴は北綾瀬にある登山靴を専門に手がける店で、私の住んでいるところから近場にあるので日本の登山靴を買うならここだろうな。と目星をつけていた店だ。
マウンテンブーツが主力、あとはプレーントゥ、チロリアンシューズがホームページに載っていて、店兼仕事場にある納品前の出来上がった靴が並ぶ棚にはチャッカーブーツがあったり街履き用に少しアレンジされた物があったりとホームページに載っていないデザインは結構あるようだ。
「見ていいですよ」と言ってくれるもののあんまりジロジロ見るのも悪いのと、作りたいものはチロリアンシューズと決まっていたのでそれをお願いした。
革は、いくつか出してくれてこちらの要望も伝えたが「これもあるよ」と出してくれたのが昔のイギリスの革。どこのかは忘れたとのこと。
もうあんまり用意は無さそうで「あと一枚、使ってないのがあるからそれを使いますね」と話してくれたので、それが良いと伝えたら「これが一番良い」と一言。
サイズを測ってもらって太め・普通・細めのうちの細めの木型で注文して、何週間かして出来上がった。
サイトを見たときも気になっていたが、やはり履き口が狭く設計してある。
カカトが抜けないようにというコンセプトで作られているのは明らかで、クッと曲がるカカトのラインや長めの芯材、土踏まずがグッと削れていたりカカトの丸みも意識した底面の木型の作りが特徴。靴内で足を正しくセットさせ、それを維持することに注力している。
取りに行ったときに出し縫いの作業をしていたので「機械は使わないんですか?」と思い切って聞いたみたが使わないとのことで手縫いのよく締まっている縫い目が力強い。
ステッチダウン製法で作られていて、これは私がこの製法でなおかつ甲の縫いもシンプルに太めの糸で縫うデザインのチロリアンシューズを知らないからわからないのだけれどもそれぞれの縫い目って揃うものなのだろうか。
履いてまず目が行ったのはそこで、私が知っているチロリアンシューズはノルウィージャン製法だったり、甲の縫いはもっとピッチが広くとってあってインパクトの有るデザインだったりするものが多い。なのでこれが普通なのか、すごいことなのかは不明だ。ただ、見た瞬間に「うわっ」となったのは言うまでもない。
履き心地は思ったより柔らかい。これは底付けの製法のおかげでサイトに載っている「チロリアンハード」はノルウィージャン製法なのできっと堅いだろう。
「あーほんとに足が動かない。良い良い」と思いながら昨日とりあえず一日だけ履いている。
35,000円と小さな店ならではの安さと言ってしまって良いのか、なんなのか。
機械を使わなかったり、家族三人での経営だったりと諸々安い理由は見つかるがそれにしても安すぎないか?と思う。