私には解けない呪いがある。
高校生の頃に友人がドッグイヤーブルゾンを良く着ていて、私もそれが欲しいと思っていたがそれをついに手に入れること無くこの年まで生きてしまった。
彼と同じ様な、程よいキャンバス地のそれを手に入れることは早々に断念していたがバラクータのブルゾンがその源流だと知るまで時間は掛からなかった。そして欲しいと思うのも。
しかし、若いうちは金が無く到底手に入れられるものではない。社会人になっても「欲しいなぁ」と思いながらなかなか買うに至らず、というか試着することすらまるで歴史上の人物に尊敬の念を抱く様に「畏れ多い」と思う状態になってしまった。そんなある日、ある百貨店で半額セールを行っていたのを何となく見かけた。
本当に目の端っこで見かけた程度だったのですぐに忘れたのだが、思い出すのもすぐだった。バラクータの経営母体が代わり撤退したのだ。その後のブランドの顛末はご存知の通り。私は完全に買うタイミングを逸してしまっていたのだ。
そんなこんなで私に掛かった解けない呪いは短丈のブルゾンに対する憧れと過剰なまでに高いハードルを立てる様になり買っても気に入らず、そもそも買うものもなかなか見つからずという事態を引き起こしていた。
その呪いがまず解けたのは春頃にペイズリー柄のブルゾンを購入したときだが、いよいよ解け始めたかと確信するに至ったのがこの服。
無論、形はドッグイヤーのそれとは違うが着たときに高校時代の気持ちがふわっと私を襲った。これだ。買うまでに時間はいらなかった。
「これを貰います」
そういって気づいたら買っていた。その奥に並ぶ素材違いの物達を目に捉えながら「とりあえずこのチェックのやつが一番似合うからこれを買って家で検討しよう」などと思ったのだ。「買って家で検討しよう」なんておかしな話だ。
その日は気持ちの高揚感が手伝って昼食を食べること無くそのまま自由濶達に仕事をした。それくらい気持ちが高ぶっていた。
帰宅して着てみると「ああ、これだ」とお店での興奮が決して半額だからという理由でないことに確信を持った。とうとう手に入れたんだと。
その後、そのままの勢いで色違いを買ったことは言うまでもない。
そしていずれ私はバラクータを買うだろう。