Re:11colors

毎週水曜更新(2021年9月現在)。革靴、模型、日常。

筆塗りで頭の中の車を取り出す タミヤ 1/24 HONDA S600

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「あ、アルファロメオの昔の車だ!」
私は指をさしながら、結構な大声で思わずそう言った。

後で聞いた話だが、前を歩くカップルはそれにつられて「どれ?どれ?」と言った様子で車を探していたらしい。年始の、少しだけ賑わっている銀座の中央通りを一本曲がった路地にその車は止まっていて、間も無くオーナーの男性とパートナーの女性が戻ってきてその場を去っていった。

「かわいい車だったね」
「うん。やっぱりこういう車に出会えるのは銀座周辺ならではだね」

私たちはその車の色や形ついて話したり、「車は乗らないけどかわいいものとして見ている」という話をした。ブルーグリーンの小さくて、あんまりギラギラしていないひっそりとした姿はアンティークウォッチのようだと思ったし、あの雰囲気の良さの原因はなんだろうかとかそういうことを考えながら帰りの電車に乗った。

 

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その夜、串田孫一という作家が小学生の頃にガラスだか白磁のコップに写り込んだ全ての色を精一杯書いたところ先生にたいそう褒められたという話を私はタミヤの1/24 HONDA S600の真っ白なパーツを見ながら思い出した。なんというか、銀座の路地でひっそりと止まっていた様子を形にしたくなったのだ。

串田は見たままを描いたが、私は頭の中にあるものを目の前に再現することに意識を傾けていて、筆で塗料を透かしながら乗せる最中に「これは串田の様ではなく、ただ心象を描いているだけだな」と思ったりしていた。そして、塗れば塗るほど雰囲気は良くなるがその後の工程で、それが失われていくのだろうと容易に推察がついていた。

 

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完成に近づけば近づくほど余分な塗料や接着剤の跡が見苦しくなり、頭の中がめちゃくちゃになりそうだったけど「ああ、でもフィギュア塗装でしょっちゅうだわこんなの」とすぐに思い直した。今はファレホを使っていてリカバリーが容易だけど、以前はそうではなかったので、それがとても苦しかったのだ。

乾燥時間の遅さや、許せない筆ムラが完成をどんどん遠くへやってしまうことが嫌だったし、それらを含めた「思い通りにいかない感じ」にフタをする様にすぐに完成させていた。それは「すべてがうまくいかないのであれば、せめて土日で完成させるくらいは思い通りにさせてくれ」という支配欲の様なものだったと思う。

それは、パソコンやスマートフォンがどんなに優れていても「電源さえ切ってしまえばこっちのもの」というような優越感に近いもので、塗装の苦手意識に対して直接効果があるものではないのに。

 

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私が慕っているモデラーに「うまく作るコツは」と聞いたら「その日に完成させようと思わないこと」と言われたことがある。確かに、”その日に完成させようと思わないでいられる間”は余裕を持った作業ができて、作業中に「これは”のんびり作りましょう”という言葉とは違うものでとても良い」と強く思ったり「明日の朝に完成させるから、今日は早く寝よう」なんて思うこともできた。

 

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「追い込むのは夜、まとめるの朝」という靴職人の話は本当の様で、朝に作ると繊細な作業は本当に軽やかに、精度良く終わる。早朝に起きて、日が昇る前に完成させたS600は、頭の中から銀座で見たあの風景を丁寧に取り出したような姿で、こうして記事を書いている間に、みるみると日が昇り明るくなる室内でちらっと見るのはとても気分がいい。

 

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組み立て指示通りにフェンダーミラーを左右同じ場所に着ける自信がなかったからと、頭をひねって片方だけつけたドアミラーがかっこいいですね。

 

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