特に細かな解説がないのが良い映画だと、SLAM DUNK THE FIRSTを見て思った。
山王工業のオールコートでゾーンプレスをかけることや、沢北がハイループレイアップを使うことが当然のように描かれているのを見て感じたことだ。特にオールコートのゾーンプレスに関していえば、優れた選手が揃った上で猛烈な練習を重ねてこその戦術だろう。山王工業は堂本監督がしっかりと練習を課しているチームだということが見て取れる、印象的な武器だ。しかも、多分、結構な間「山王工業といえば」と言われるくらいに続けているような気がする。その中で突出している沢北だけがスペシャルなシュートを打つというわけだ。20年以上昔に原作を読んだころとは、ずいぶん違う感想を抱きながらずっと見ていた。
実際、湘北のメンバーが完全に山王工業の誰かを凌駕したと描かれるシーンはほぼない。一対一で完全攻略、もうこいつは穴、みたいな。「明確に勝った」というのはリバウンドで桜木に劣った野辺くらいなもので、すぐにマッチアップの改善で塞がれている。それ以外には瞬間最大風速で大事なところで勝ったという感じだ。チームとしても山王はオールコートプレスのやりすぎで体力切れにはならないし、ハイループレイアップを見切るなんていう話もない。わかりやすく勝たない。「長く積み重ねられたものには、完全には勝てない」というところが妙にリアルというか、冷たい。
だからこそ、ようやく揃ったと言わんばかりの湘北のメンバーが勝つ相手としては、これ以上ない相手で、起こるべくして起こる大番狂わせの斬られ役としての存在がとても際立って見えた。もちろん、主役は湘北だから仕方がないのだけど、変わることを望んだのは山王では沢北だけだった。試合中に強くなるなんていうことは現実世界ではほとんどない。河田は、桜木を跳ばせなければどうということはないということを、野辺に伝えなかった。ユニフォームを掴まれ、駆け引きに負ける様子を横目に、あいつには無理だろうと思ったのだろうか。
そう思うと、河田相手に無茶なシュートを試みて倒れ込んだ赤木の精神世界から目覚めたときの「ああ、今は俺には仲間がいるんだな」と感じさせるようなシーンが眩しい。というか、湘北のメンバーは試合中に「今までと違うんだ」と気づき、変わっていく。思いっきり全力をぶつけても壊れない相手を互いに見つけたというか。これがSLAM DUNK THE FIRSTの面白いところだ。宮城だけは、家庭環境や自身の学生生活などのバスケ以外のところでも、ターニングポイントとなるところがいくつかある。それは、ある意味で孤独な二年生がゆえの広がりだと思ったし、主役としての描かれ方がこうも内省的でどんよりとしたものになるのかと思いながらも「強いな」と思った。
また、安西先生がじわりじわりと牙城を崩して行くことが割とはっきりと描かれているのが面白い。桜木に、ゴール下での振る舞いをしっかりと指示するのは映画を見ている側にもやさしいと思うし、優れた指導者が選手を育てるための象徴的なシーンだと思う。「こういう理由で、これだけをやれ」とワンアクションのみを指示するのは良いコーチングだ「全体をしっかり見て」とか言わない。そんな風にゲーム全体をコントロールするように努めて、しんどい戦いの中で期待以上の活躍をすると喜ぶ姿が印象的だった。それでも「お前はボールを持ったらいっちゃえ」と流川に指示を出すのは宮城なので、選手同士で考えて指導者の想像を上回る姿が、山王との対比であって良いシーンだ。
なんというか、CGでリアルに動きまくる映画の割に、かなりメンタルに寄った映画だけど、そこは特に解説しない、せいぜいBGMの演出で今のムードを明示するだけ。というのが気が抜けず良い映画だと思いました。
ああ、こんなことを書いていますが、それぞれに気付くたびに謎の感動が訪れて、各々違う理由で終始泣いていました。「良いコーチングだ。勝つ気でいるな」とか。上映時間のほとんどは泣いていたんじゃないか。オープニングの集まってくる湘北で泣いて、ふてぶてしく動く山王工業の5人を見て、さらに泣いてた。だって、面白い漫画か満を持して帰ってきたんだもの。
今日の物販