この手の靴は一つの、飛び道具みたいなものなのですが。
ドレスのデザインで、タフな革を身にまとわせてそのコントラストを楽しむやり口はずるいというか渋いというか、なんですかね。
「こういう靴がもっとあればいいのに」
と思うようなことはありますが、あってもあまり売れないでしょうしなんとも言えませんね。あまり売れないからこそ、その一瞬の湧き出てきた瞬間に買う。これです。
夏はもう、生地も薄い太めのカーゴパンツに合わせて履いてたりしてますが、デザインが絶妙ですよね。この前の方のバランス。甲周辺を大きめにとってるこの感じ。レースステイ周辺。わざと野暮ったくしているようで斜めから見たときはくっそキレイという、低いラインの曲線がズルいですよね。全体の造形センスが非常に高め。
意図的に大きく取って、真っ直ぐなラストに横たわるようにバランスを設定しているのでしょうか。前にシャープな推進力のあるラストのデザインの割りに水平に低く広がるような造形を仕掛けているあたりに何か、俺の知らないまとめ方を感じます。
こういう優雅な遊び心っていうんですかね。
そういうのを楽しむ靴は今は減りましたね。
デザインのカテゴライズが「ストレートチップはストレートチップ!」といった形で明確に押し出される一方で細部のこういう怪しい仕掛けはあんまり言語化されないというか、どうでしょう。
夏はこういう妙な軽快さのある靴をザックザックと履くのが楽しいですね。
かなりカントリー寄りの雰囲気を、スッと伸びるラストに乗せていますが、じゃあこれが黒のスムースレザーならどうだ?とかスエードならどうだ?なんてことやウェルトがストームウェルトならどうだ?とかそういう話を考えると面白い靴です。
このデザインはクラシックなのかモダンなのかとかね。造形の歴史は知らないのでアレですが、こういうデザイン的な処理の引き出しの多さに呼応するくらいの心意気は持っていたいところ。
靴の佇まいを確定する要素で重厚感をコントロールしつつも、その評価はあくまでも「軽やか」。そう思わせるバランス感が、合わせる服を「いつもと同じ」にさせないような、ユニークな魅力のある一足です。