昔、ラフォーレ原宿の向かいにGAPがあって、店の前は少しフリースペースというか、階段を上がったところに空間があって、そこはおしゃれな若者達の溜まり場だった。なぜかというと、そこには雑誌のカメラマンがファッションスナップを撮るために待機していたから。
そんな明治通りと表参道の交差点にあったファッションのメッカのような存在が戦車のプラモデルだ。私は戦車のプラモデルがあまり得意ではない。その気持ちは今も変わらない。どこを作っているのかわからない感覚、細かな部品を組み付ける作業、1mmの穴あけ指示。転輪の組み立て図についている「8個つくります」というワード。A、B、Cとバリエーションごとに違う微妙なパーツの組み分け。しかもそれがほんの数年の違いや、どこで使われたのかで変わること。出来上がりはその作業の分、精密で魅力的だが、車や飛行機のような軽やかさとは異なる重厚感、そして戦いの姿。
これら全ては戦車のプラモデルの魅力だが、それが私にとっては大変で、なんだか受け付けにくいのだ。
しかし、そこに集まる男達はとても魅力的だ。確かに私も原宿のGAPには数えるほどしか入ったことがないが、店の前はよく通った。そして、そこに集まっている人たちを冒頭に書くくらいには覚えている。鮮烈だったということだ。
プラモデルの戦車に集まる、つまり戦車兵だとか歩兵、陸軍なんて書かれているものにはそんな風に鮮烈で魅力的な人物が多い。多いというか、多数のキットが発売されているので選ぶ幅が広いとも言える。そして、私は彼らのことが結構好きで、魅力的なポーズとかいい表情とかそういうことに惹かれる。細かく再現された服装を見ては、今の服装にも生きるディテールに感心する。
これは、そんな俺みたいなモデラーへの手紙だ。
俺みたいにプラモデルに何か自分なりの可能性を見出すタイプの人間への、メッセージだ。それは例えば、Good WearのTシャツとほとんど変わらない厚手の生地で襟首がヨレることのない(しかもかなり安い)ユニクロUのTシャツを見て「襟首がヨレるのがGood Wearの難点だと思っていたが、トータルのバランスでいうとヨレた方が良いんじゃないか?」とかそういうことに気づく人間へのメッセージだ。最適化され、説得されそうな何かに、待ったをかけて納得するまでに時間をかけるタイプの。
俺は何か、まだ、言葉にしにくいことに気づいている、そしてこれだけは言える「こういう風なことに気づいている人間にあったことはない、検索してもそういう話は出てこない」と思ったり、戦車はあまりにも戦いの様子を感じてしまうとか、そのせいで部屋に置くとなんだかイマイチだとか何かそういうことを感じる人への話だ。
素直にミリタリー、かっこいい!戦う男達がかっこいい!とは思えない。他にも色々と納得いかない理由があると思う。そのせいで、なんだか作れない。ただ、それでもそれを取り巻く人の生き生きとした姿に惹かれていることに薄々気づいているのであれば、これだけは書いておく。
彼らが集まるのは戦車だ。ファッションに敏感な若者達が生き生きとした、あの交差点のGAPのように。1/35の魅力的な男の視線の先には、戦車がいる。
今日の物販
Dressing the Man: Mastering the Art of Permanent Fashion
- 作者:Flusser, Alan
- 発売日: 2002/10/01
- メディア: ハードカバー